介護の知識

自分自身も利用者だから……新米経営者と学ぶ、お客様とつながるケア「ユマニチュード®」とは?

初めまして、訪問介護の株式会社でぃぐにてぃ代表の吉田真一と申します。
19歳で受傷して頚椎損傷で四肢麻痺の障がい者になって23年。
2014年にでぃぐにてぃを立ち上げたばかりの新米経営者です。

「介護サービスの利用者であり、同時にサービスの提供者でもある」視点から、私自身も学びながら皆様にお伝えできればと思います。

介護職は患者さんの家族ではない

私たちでぃぐにてぃの社名の由来でもある「尊厳のあるケア」を考える時、いつも思い出す情景があります。

私がとある病院に入院していた時のことです。
4人部屋の向かいのベッドに、ご高齢の男性が入院されていました。名前は鈴木さん(仮名)。
聞こえてくる会話によれば、鈴木さんには呼吸器系の疾患と軽度認知症の症状があるとのこと。

ある朝、一人のナースさんがやってきます。

ナースさん(いきなりカーテンを開けて)「起きた?また来たよー」
鈴木さん「……」
ナースさん(目線を上げず、すぐにベッドを上げながら)「ご飯だからベッドあげちゃうね、しっかり食べてよ」
鈴木さん「……」
ナースさん(大声で)「起・き・て・ま・す・かー?」
鈴木さん「…………」
ナースさん「この間も全然食べなかったんでしょ。お願いだから、今日はしっかり食ーべーてねー」(カーテンを開け放して退出。)
鈴木さん「…………チッ!」

翌朝、今度は別のナースさんがやってきました。
彼女のことは、Bさんとします。
Bさん(カーテンを開ける前に)「鈴木さん、失礼いたします」
鈴木さん「う――ん。はいはい」
Bさん「鈴木さんおはようございます。初めまして!今日のお昼担当のBです。とっても好い天気になりましたよ」
鈴木さん「そう?」
Bさん:(笑顔で目線を合わせながら)「鈴木さん、起き抜けにいきなりすみません。お食事の準備でベッドを起こしてもよろしいですか」
鈴木さん「いいよ」
Bさん「苦しくないですか?少しずつ上げていきますから、苦しかったらおっしゃって下さい」
鈴木さん「あぁ大丈夫、でも昨夜もなんだかよく眠れなかったよ」
Bさん(背中にそっと手を添えて)「あら、大変。鈴木さんご飯は食べられそうかしら?」
鈴木さん「飯だけが楽しみだもん」
Bさん「あらうれしい、じゃあしっかり召し上がってくださいねー」
鈴木さん「うん頑張るよー、あとカーテンは閉めていってくれるかい?」
Bさん「あら気付きませんで、では終わったころにまたうかがいます。何かあったらいつでもお声掛けくださいね。どうぞごゆっくり」
鈴木さん「うん、ありがとう!」

認知症であろうがなかろうが、一人目のナースさんのように、名乗りも挨拶もしない自分の孫のような歳の他人から、起き抜けにベッドを起こされて「ご飯を食べろ」と言われても……。
そりゃ無理でしょう、と私は思いました。
誰であってもBさんがしていたような、挨拶・声掛け・会話……といった、気持ちいい気遣いのあるケアを希望するのではないでしょうか。

メソッドから考える、お客様の尊厳の守り方

認知症の人に有効だとされるフランス生まれのケアメソッド「ユマニチュード®」が、NHKスペシャル等のTV番組でも紹介されて、注目を集めています。
先日ユマニチュード®の生みの親、ジネスト・マレスコッティ研究所長のイヴ・ジネストさんの来日講演を聴く機会がありました。
話しながら・触れながら行われるケアの効果は、劇的で“魔法”のようでもありますが、その実、非常に実践的なケア手法の積み重ねが「ユマニチュード®」を支えているのです。

それでは、「ユマニチュード®」の5STEPをご参照ください。

  1. 1.出会いの準備(挨拶)
  2. 2.ケアの準備(声掛け)
  3. 3.知覚の連結(ベッド昇降+食事)
  4. 4.感情の固定(会話)
  5. 5.再会の約束(〆の挨拶)

ユマニチュード®に基づくと、上記の一人目のナースさんのケアでは、事務的にSTEP3のみが行われていることが読み取れます。
STEP1・2・4・5はおざなりになってしまっているのです。
対してBさんのケアでは順番こそ違いますが、五つのSTEPが過不足なく実行されています。

上記を踏まえて、「尊厳のあるケア」とは、

  • 障がい/疾患の程度に関わらず、お客様に敬意を払いながら行う
  • お客様が選択する意思を尊重して、お客様の暮らしを支えさせていただく
  • ことである、と私は考えています。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

ABOUT ME
吉田真一
19歳の時に頸髄損傷で電動車椅子生活に。毎日在宅で介護を受ける中で生まれた「こうだったらいいのに」「ああだったらいいのに」を解決したくて、訪問介護の会社を作ってしまいました。介護する人もされる人も気持ちいい『世界いち気持ちいい介護』の理念で、お客様と社員を幸せにするべく頑張っています!地元新宿で妻と子供と生活しながら、株式会社でぃぐにてぃ代表をしています。