介護の知識

よくわかる!移乗介助の事故事例について、その予防法と報告方法

介護事故において、過半数を占める事例が「転倒・転落」です。(※注1)
転倒・転落事故が起きやすいシチュエーションのひとつに「移乗介助」があります。

「移乗介助が難しい…失敗してしまった…」「移乗介助でどんな事故が起きているんだろう」と思われている方も多いのではないでしょうか。

移乗介助で起きた事故、事故が起きたときの対応、事故の予防法、事故が起きた後の報告方法についてご紹介します。

※注1:社会医学研究が『介護保険施設における介護事故の発生状況に関する分析』調査。

移動介助の事故と対応策

事故種別 移乗介助の事故と対応策の例

移乗介助ではどのような事故が起きているのでしょうか。事故の状況と対応例の中から、3つ選定してご紹介します。

1. 事故種別:転落
【状況】おやつ介助のためベッドより車椅子へ移乗介助を行う。移乗後に車椅子を十分にチルトせずにその場を離れてしまい車椅子より転落してしまった。左眉と右頭頂部に裂傷を負われる。
【対応】医務室へ連絡、バイタル測定及び患部の処置を行なう。気分不快や頭痛等の症状は見られない。経過観察を行なう。ご本人様・ご家族様へ状況説明及び謝罪を行なう。

2. 事故種別:受傷
【状況】朝食のため車椅子移乗介助を行った後、左足薬指の爪が剥がれかかっているのを発見する。移乗介助時に寝具等に引っかかったと思われる。
【対応】医務室へ連絡し処置を行う。移乗介助時には足先が引っかからないように注意するよう周知する。

3. 事故種別:表皮剥離
【状況】入浴後、ベッドへ移乗介助を行ったところ、主より痛いとの訴えが聞かれた。右腕に表皮剥離を発見した。
【対応】医務室へ連絡し処置を行う。高齢者の身体的特徴をふまえた上で、介助の際はお客様に身体的負担をかけないよう介助する旨周知する。

出典:カントリービラ青梅

不安な声多数!事故の体験談

事故状況から、移乗介助が必要な方やシーンは、意外と多いことがわかります。介助をするたびに上記のような事故を想像してしまうと、介護士さんたちは安心して介護ができないのではないでしょうか。
実際に事故を起こしてしまった方や事故の場面に立ち会った方はどんな不安な思いをされたのか、生の声をご紹介します。

体験談1

私はデイサービスで働きはじめて2年目の介護士です。私のデイサービスはお泊りもできる施設で、先日の夜勤時、トイレに行くために移乗介助を行いました。
そのとき、バランスが崩れて転倒させてしまいました。利用者さんは痛みを訴えられ、病院に行ったところ、骨折の診断を受けました。とてもショックでした。
利者さんは優しくて、「大丈夫だよ」と言ってくださったのですが、落ち込みがひどく、介護士としての自信を失いました。上司がとても励ましてくれたので、なんとかやっていけていますが、移乗介助が怖いです。

体験談2

私は大学卒業後、介護の会社に入社しました。はじめに、デイサービスで3カ月間研修をしてもらい、現在は訪問介護事業所で働いています。デイサービスで研修をしてもらっているときに事故が起きました。
その日はパートさんのお休みが多く、所長が久しぶりに入浴介助を担当していました。私は入浴後の更衣介助を担当していましたが、急にお風呂にいる所長に呼ばれたので、ドアを開けてみると…
利用者さんが床に滑り落ちて立てなくなっていました!
半身マヒの利用者さんの入浴にはリフトを使います。そのリフトから立ち上がりの移乗介助時に滑って転倒してしまったようです。男性利用者さんの体重は重く、体も濡れていて、全介助です。立ち位置から所長は手伝いづらかったたため、とても難しいシチュエーションでしたが、1人でなんとか車いすへ移乗しました。
幸い、骨折等はなく背中の擦り傷程度ですみましたが、ベテランの所長でも事故を起こしてしまうんだなと思いました。所長もとてもショックだったと思います。
改めて介護の危険性を感じ、怖くなりました。何年経験したとしても、気を抜いてはいけない仕事なんだと思いながら働いています。

事故を防ぐ移乗のコツ

上記の体験談のように「移乗介助が怖い、どうしよう…」と不安に思われている方、「移乗介助は難しい」と苦手意識がある方のために、
事故を防ぐ移乗介助のコツをご紹介します!

基本を押さえて事故を防ぐ!7つのポイント

まずは基本的な移乗介助のポイントをご紹介します。なにごとも基本をおさえておくことが大切ですよね。

7つのポイント

  1. 1.車いすの角度はベッドから30度の位置に移動する(ブレーキがかかっているか、フットレストは上がっているかを確認)
  2. 2.利用者の車いすに近い方の足を少し前へ出す
  3. 3.介助者の両手を利用者の腰のあたりでしっかりと組む ※不快な思いをさせるため利用者のズボンはつかまない
  4. 4.介助者の肩につかまってもらい、利用者をしっかり前傾させる
  5. 5.立ち上がり時は腰を曲げ、重心移動を使って、利用者を立ち上げる
  6. 6.ゆっくりと座ってもらい、深く座れているか確認する※骨折させるリスクがあるため、勢いよく座らせない
  7. 7.ひとつひとつの動作に声掛けをし、一緒に行う

立ち上がり時と車いすへ重心移動をする時に焦ってしまうと転倒の危険性が上がります。ひとつひとつの動作をゆっくりと落ち着いておこない、安全な介助を心がけましょう。

マヒ側に注意!半身マヒ患者の移乗方法とは

基本的に半身マヒがあっても移乗方法は変わりません。大事なことは、マヒ側を認識することです。
マヒ側は力が入らないため、マヒ側を重心にすると、立位や座位が保てずに事故につながる恐れがあります。右半身マヒ患者の場合は、左側が重心となるように介助しましょう。 

ひとりひとりにあった移乗をしよう

介護の難しいところは、利用者さんひとりひとりに合った介護をする必要があることです。
病気や症状、性格はひとりひとり違います。立位や座位が保てない人や「ここを触れられたらいやだ」という人もいるかもしれません。同じ利用者さんでもADLは変わっていきます。
基本だけでなく、利用者さんをよく理解し、観察して、日ごろからその人に合った介助方法を考えていくことが大切だと思います。

ヒヤリハット報告書について

「気を付けていたのに、事故を起こしてしまった!」
事故が起きたときは事故報告書を書きますよね。しかし、事故が起きていなくても報告書を書く場合があります。

それは「事故が起きそうになったとき」です。事故が起きそうになったときに書く報告書が、「ヒヤリハット報告書」といいます。

ヒヤリハット報告書とは

ヒヤリハットとは、重大な事故には至らないものの、事故に直結してもおかしくない事例をいいます。 文字通り「ヒヤリ」や「ハッ」としたケースのことです。
その状況の報告や気付きのレポートを「ヒヤリハット報告書」といいます。
ヒヤリハットを発見することで、事故につながる危険を見極めることができる上に、普段と違う兆候や異常さに気付くことになるため、察知能力が育まれます。ヒヤリハット報告書は、事故が起こりやすい状況を認識させてくれるので、事故を防ぐための大切な役割を果たしているといえます。

ヒヤリハット報告書とは、どのように書くといいのでしょうか。報告書の例をご紹介します。

ヒヤリハット報告書の例文

〇ベッドから車いすへの移乗時にずり落ちてしまう
要介護3の方で、息子様と同居しており、近隣に娘様が在住。息子様は平日仕事をされており、帰宅は夜遅い。娘様は昼食と夕食を準備しにくるが、それ以外は1人で過ごされている。歩行困難で、車いすで生活されている。排泄介助はベッド上で行っている。ベッドから車いすへ、車いすからベッドへの移乗は、車いすをベッド横に移動し、アームレストをはねあげてあげれば、見守りのみで移乗可能。腰が痛い時や、風邪を引いている時は力が入らないことがあるため、移乗時注意が必要。
―対応―
サービス時、排泄介助が終わり、ベッドから車いすへの移乗をする際に、腰の痛みを訴えていたが、「ご自分で出来る」とご利用者が言ったため、見守った。ベッドから車いすへ移った際に、車いすに浅く座ってしまい、ヘルパーも支えきれずずり落ちるという形で床に座り込んでしまう。
―原因―
・ベッドに端座位になっている時の姿勢が適切な姿勢か確認不足だった。
・座位の保持の時や移乗する時にすぐに補助できるような立ち位置での‘見守り‘が出来ていなかった。
―対策―
・ベッドから起き上がった際に、座位の保持がご自分でできているかを確認する。
・何かあったときにすぐに介助できる位置にいる=見守りであることを再度確認する。

出典:やさしい手千葉新田町巡回訪問介護事業所

ヒヤリハット報告書の書き方 3つのポイント

例文を読んで「報告書ってむずかしいなぁ」と感じてしまう方も、3つのポイントをおさえることで、わかりやすい報告書を書くことができます。
参考にしてほしい3つのポイントをご紹介します。

3つのポイント

・対象の利用者が何をしていたかを明確に書く
5H1W(いつ・どこで・だれが・何を・なぜ・どのように)を意識して書くことで、その場の光景がイメージできる文章になります。
・文章が苦手な場合は絵を描く
文章が苦手な方は絵を描くのもOK!部屋の間取りや物の配置がわかることで、見る人の理解力を深めます。
・事故予防のために、しっかりと原因を書く
ヒヤリハットを振り返ることで、その事例が起きた原因がわかります。起きた事象だけでなく、原因を書くことで事故を予防しましょう。

利用者さんと自分の安全を守る、移乗介助を!

移乗介助の事故は多く、危険性は高いといえます。
移乗介助は、利用者さんを傷つける事故だけではなく、自分の身体を痛める可能性もありますので、利用者さんと自分、両方を守らなければなりません。そのためにも、過去に起きた事故を参考にしてもらい、基本をおさえ、利用者さんを日々観察して、事故の予防に努めていただきたいと思います。
利用者さんと介護士にとって、安全な移乗介助が増えていってほしいと願っています。

参考サイト
介護のすゝめ 「介護のヒヤリハットの書き方!3つのポイントを紹介【文例あり】」(2017年4月14日)

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