介護の知識

暴言が消えた!魔法みたいな認知症ケア「ユマニチュード®」って?

ユマニチュード®とは、フランス生まれの新しい認知症ケアの手法。特別な治療もなく、わずか1分程度で驚くほどの効果をもたらすと、注目を集めています。うつ状態や暴力的になったりする人も、ユマニチュード®を通すと穏やかになることから「魔法のよう」と紹介されることも多いようです。もちろんユマニチュード®の中身は魔法ではなく、具体的な技術に裏付けられた、誰にでも習得できる介護の方法です。その中身を見てみましょう!

ユマニチュード®とは?

ユマニチュード®は、「ケアする人とは何者か」という哲学に基づく、認知症ケアの手法。今から約35年前、体育学を専攻するふたりのフランス人、イブ・ジネストさんとロゼット・マレスコッティさんによって作り上げられました。

見る、話す、触れる、立つというコミュニケーションの4つの柱を基本とし、150を超える技術から成ります。現在フランスでは400を超える医療機関や施設が、ユマニチュード®を導入しています。今ではドイツやカナダなどでも導入され、世界中に広まっており、日本にも2011年から導入されました。

世界中で新しい認知症が広まる中、ユマニチュード®は国内でも多くのメディアで取り上げられ、医療・介護の現場で実践されています。

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「見る」「話しかける」「触れる」「立つ」の4つの基本柱

ユマニチュード®の基本は、4つの手法を組み合わせて行うことです。具体的には「見つめながら会話位置へ移動する」「アイコンタクトが成立したら2秒以内に話しかける」といった150の手法があり、全国での講演会や研修会を起点に広まっています。

見る

見る
ユマニチュード®でも特に大事とされている「見る」。認知症になると人よりも視野が狭くなるため、まずは本人の視界に入って存在を認識してもらうことが大切です。

同じ目線の高さで、20cmほどの近距離で、親しみをこめた視線を送ります。ユマニチュード®考案者のジネスト氏曰く、「見ないのはいないのと同じ」。視線を合わせることで、言葉で説明するよりも早く、確実に「私はあなたの味方です」ということを伝えられます。

話しかける

話しかける
ユマニチュード®ではたとえ反応が返ってこない方に対しても、積極的に話かけ、常にポジティブな言葉を加えます。ケアをするときも「今からお口の中を綺麗にしますね」「お口を開きます、さっぱりしますよー」「綺麗になりましたね、気持ちいいですね」と、実況するように、ゆっくりと声がけをします。そうすることで、単なる「作業」ではなく、心の通った「ケア」になります。

触れる

触れる
人間関係を親密にさせる上でボディタッチは非常に効果的と言われていますが、ユマニチュード®でも、触れることを推奨しています。ケアをする時本人の背中や手を優しく包み込むように手のひらを使って触れることで、安心感を与えます。

この時、忙しく無言で触れてしまうと逆効果で、本人に不信感を与えかねません。優しく声を掛けながら、そっと触れることが必要です。

立つ

立つ
ユマニチュード®考案者のジネスト氏が、「自分の足で立つことで人の尊厳を自覚する」と語っている通り、ユマニチュード®では最低1日20分は立つことを目指しています。立つことで、筋力の維持向上や、骨粗鬆症の防止など、身体機能を保つ効果があるのと、他の人と同じ空間にいることを認識することで、「自分は人間なのだ」という実感にもつながります。

ユマニチュード®でNGな行動とは

ユマニチュード®ケアで「やってはいけないこと」として、以下のような行動が挙げられています。

  • 腕などを突然「つかむ」
  • 視界に入りにくい「横や後ろ」から声をかける
  • 無理やりに立たせようとする

介護する立場からすると何気なく行うことでも、認知症を持つ本人にとっては不安や恐怖を煽る行動として捉えられます。意識して避ける必要がありそうです。

ユマニチュード®の効果とは?

認知症の人を「病人」ではなく、あくまで「人間」として接することで、認知症の人と介護者に信頼関係が芽生え、周辺行動が改善する効果があるといいます。実際にユマニチュード®を試した家族からは、驚きの声が上がっています。

・入浴のたびに大声を上げていた認知症の母から『ありがとう』と言われた
・寝たきりの祖父が歩くことが出来た

実際の介護現場での認知度、活用状況は?

ユマニチュード®の認知度と活用状況、実際の効果について、認知症介護をお持ちの方100名にアンケート調査を実施しました。

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Q1.認知症介護ご経験者へ。「ユマニチュード®」をご存知ですか?

ユマニチュード®を知っていますか?アンケート結果グラフ

認知症介護の経験者のうち「知らなかった」が全体の10%と低く、ユマニチュード®の存在が広く知られていることが分かりました。一方、「言葉だけ知っている」が39%と最も多く、「言葉と基本的な考えは知っているが技術は知らない」が2番目に多い30%。ユマニチュード®の存在は知られているものの、詳しい技術は浸透していないという現状が分かります。

※上記アンケートで少しでも「知っている」と答えた人の属性は、介護・福祉職従事者が53%、介護家族が28%、医療職従事者が13%、その他6%という内訳でした。

Q2.ユマニチュード®を実践したことはありますか?

ユマニチュード®を実践したことはありますか?アンケート結果グラフ

Q1でユマニチュード®を少しでも「知っている」と答えた人のうち、実践したことが「ある」人は全体の58%。実に半数以上の人が実践の介護の現場でユマニチュード®を取り入れていることが分かりました。

一方、全体の38%は実践したことが「ない」と回答しています。実践したことがない理由として寄せられた回答の一部を紹介します。

■父は触れられるのを嫌がるので中々出来ない(50~54歳/女性)
■24時間一緒にいる家族に常にできる心のゆとりがない(55~59歳/女性)
■正直に言いますと日々の業務に追われ心に余裕がなくて難しい毎日です(40~44歳/女性)

Q3. ユマニチュード®の実践で得られた効果やエピソードは?

ユマニチュード®の実践で得られた効果について、自由回答で寄せられたコメントの一部をご紹介します。

■声掛けしながら手をとり、お箸を持って頂くと、食事をし始めた。不機嫌になり始めた方に、声をかけながら手を握ったり、肩を抱いたり、傾聴の姿勢をとると、穏やかになり、不機嫌になった理由を話してくれる。(55~59歳/女性)

■脳内出血で入院して認知症が進みました。目を見てはなす、これから何々していいか聞いてからする、触れるなどは本を読む前からやっていました。退院後に病院を変えたこともあるかもしれませんが、だいぶ意識がはっきりしました。本を一度読んだだけなので、繰り返し読みたいと思っています。(50~54歳/女性)

■手で触れる事でキツい表情が柔らかくなりだいぶ話が出来るようになりました。(35~39歳/女性)

■しっかり明るく向き合い目線をあわせて2秒いないに会話や挨拶をすると多少ご機嫌斜めなときも話に応じてくださったり、丁寧な挨拶をしてくださることが多く見られます。(60~64歳/女性)

■「あ、この方ってここまで自分で動けたんだ…」っていう衝撃(20〜24歳/男性)

■歩くことがなかった方々が1日に1度ぐらいだが歩くことができるようになった(30~34歳/女性)

■目を開けないで食事をする患者さんに目を開けて食事を見てもらうことで、開口も良くなって、食事介助が楽しくなった。 ベッドから車いすのトランスの時、いつも怒る患者さんに見つめて話し、うなづいてからトランスすることで、大丈夫と言ってもらえた。(45~49歳/女性)

■ユマニチュード®の知識がなかった時と比較するとゆっくり優しく接することが出来るようになったと思います。介護される側も穏やかな感じの表情になったと感じます。(45~49歳/女性)

【アンケート調査概要】
・調査期間:2017年5月30日(火)~5月31日(水)
・調査対象:認知症の介護経験を持つ全国20代~60代の男女100名(対象:認知症ONLINEの読者)
・年齡割合:20代 4%、30代 14%、40代 34%、50代 39%、60代 7%、70代 2%
・男女割合:女性85%・男性15%

まとめ

「人は見つめてもらい、誰かと触れあい、言葉を交わすことで存在する」というユマニチュード®。認知症の人々だけではなく、子供さんから大人まで、全年齢のコミュニケーションでヒントになる部分も多いですね。「まるで魔法のよう」とも称されるユマニチュード®の効果は、現在各国でたくさん報告されています。今回のアンケートでも、多くの方がユマニチュード®の可能性を感じ、実際の介護に取り入れていることが分かりました。

また、“人との関わり”を大切にしながら、ご本人の自立を促すユマニチュード®の技術は、ご本人の心を開く効果だけではなく、介護をする側の心も落ち着き、さらにご本人に優しくできる効果を発揮することも分かります。

ユマニチュード®という明文化された技術を実践する機会は、今後、多くの介護の現場や家庭で増えていくのではないでしょうか。

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